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エンゼルケアアーカイブ
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医療機関や介護・福祉施設における死後の入浴温度と注意点

 

長沙民政職業技術学院 遺体管理学教授  伊藤 茂 氏

 

死亡直後のご遺体の温度(直腸温度)は36℃以上で、死亡直後に遺体を浴洗する場合においては、32~35℃までの温度の微温湯であれば、ご遺体に対し一切の悪影響はありません。
死亡から1時間以内であれば、38℃~40℃の微温湯に遺体を10分間程度浸したとしても、直腸温度の上昇は見られず、死後3時間以内であれば35℃までなら、ご遺体への悪影響はほとんどありません。
遺体の入浴は、浴槽入浴よりもネット懸架浴洗が理想的ですが、医療機関等で死亡し、死亡後間もない時間で遺体の入浴をする場合においては、40℃以上の湯温の浴槽に遺体を浸さなければ、ご遺体への悪影響は考える必要はありません。
厳密に言えば、遺体管理学的に考えると、温度の低下した遺体を再加熱(温める)ことは厳禁です。
しかし、これは基本的な考え方であり、遺体の深部体温(深部温度)に変化が現れない範囲での入浴等では、遺体に対する悪影響は皆無、または非常に微弱であり、問題となるレベルに達しないと言えます。
生体においては、20℃の室内で深部体温が37℃(正常状態)の場合、手や足の温度は28℃で、深部体温との差が9℃もあります。
生体では体内での熱産生があり恒常性が存在するため、深部体温は一定に保たれますが、ご遺体では熱産生が無いために、遺体深部体温や遺体表皮温度は遺体周囲温度(室温や湯温)等に依存します。
ご遺体用の冷蔵庫で遺体を保管した場合、冷蔵庫の温度は4~7℃に設定されているため、遺体深部体温や遺体表皮温度は遺体周囲温度である4~7℃になります。
特に遺体温度と遺体周囲温度の差が大きい場合には、遺体冷却速度が速くなりますが、室温放置や室温安置の場合では遺体冷却速度は遅くなり、遺体深部体温と遺体表皮温度の差は大きくなります。
病院の霊安室は、病室に比べ室温が低い傾向があります。
死亡確認後にどのような環境で遺体が安置されていたかにもよりますが、例えば夕方に死亡を確認し、室温が26℃で死亡前の深部体温が37℃と仮定すると、午前0時頃までに3℃程度低下し34℃、翌朝10時の時点では28~30℃程度になると思います。
特にご遺体に布団が掛けられた場合では遺体冷却速度が大きく低下しますので、シーツを掛けた状態と比べると、遺体冷却は鈍化します。
仮に翌朝10時での遺体深部体温が28℃とした場合は、遺体の手足の温度は26℃で、生体のような9℃の温度差は見られず、温度差は2℃となります。
体型にもよりますが、太った体型では入浴時の深部体温は遅くなり、遺体の深部体温冷却は遅くなります。
一方、痩せた体型では比較的短い時間でも深部体温上昇は早くなり、遺体の深部体温冷却は早くなります。
故人の体型により、湯温は2℃程度の幅、入浴時間も幅を持たせて考えます。
死亡直後(1時間以内)の入浴であれば遺体温度と生体温度の差はほとんど見られず、38~40℃程度の微温湯で10分程度の入浴でれば、悪影響はほとんど見られません。
しかし、翌朝10時であれば遺体温度は確実に生体温度より低下しており、ご遺体の再加熱は極力控えることが基本となります。
前述のごとく、生体での手足温度は28℃前後であり、32℃以上であれば感覚としては「温い」と感じると思いますが、家族が参加してご遺体の入浴をさせる場合には「ご遺体への温度の与える悪影響」と「家族が温かく感じるか」が重要です。
この点は相反する問題で、どこまでが可能かを考える必要性が出てきます。
この点から考えますと、死後時間が経過してから(死後3時間以上)の遺体への悪影響が出る上限湯温度は、32~35℃と考えます。
これも、浴槽入浴時間を10分以内として考えられる値であり、入浴時間がさらに長くなる場合には、湯温をさらに2℃程度下げて下さい。
ご遺体の入浴は、浴槽に遺体を浸した入浴ではなく、シャワーによるネット懸架入浴が適しています。
ネット懸架によるシャワー入浴であれば、湯温による遺体深部温度の上昇はほとんどなく、遺体表皮温度の上昇は一時的に上昇しますが、この温度上昇は極短時間であり、直ぐに元の温度に戻ります。
葬祭業界で死後の処置で行う湯灌(新式湯灌)では、浴槽に遺体を浸す浴槽入浴は行わず、ネット懸架を使用したシャワー入浴を行っています。
これは、湯灌の依頼が死後に葬儀社から行われるため、実際にご遺体に対して湯灌を実施するのは死後24時間以上経過していることが一般的であり、ご遺体の死後硬直の発生と遺体の再加熱防止の目的から、前述のネット懸架シャワー浴を行います。
これらの問題や委細に関しましては、エンゼルメイク・アカデミアで湯灌士の先生から詳しい説明があると思います。
その他入浴時の注意点としましては、死亡前に重篤感染症(敗血症、太葉性肺炎等)が見られたご遺体は、入浴を控えた方がよろしいかと思います。

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