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エンゼルケアアーカイブ
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エンゼルメイクにおける「ご遺体を看るポイント」

 

長沙民政職業技術学院 遺体管理学教授  伊藤 茂 氏

 

立場の違い

 

ご遺体を見る場合も立場により見るポイントが異なる。
司法関係者がご遺体を視る場合にはご遺体が正常な死かどうか、特に犯罪に起因した死であるかがご遺体を見るポイントとなる。
そのために、ご遺体だけではなく死亡前の状況や状態、周囲の環境や人間関係、社会的状況が重要であり、これらを総合判断してご遺体を見ている。
また、医師がご遺体を診る場合は医学的根拠に基づき死因を判断するために、既往歴やご遺体から見られる病変や診断(打診・触診・検体採取)等を考えてご遺体を見ている。
一方、看護師がご遺体を看る場合には前居述の視る場合や診る場合とは全く異なり、犯罪性の有無や死因の種類には関係なく「患者さん自身やご家族に近い目線」でご遺体を看ることとなる。
これは医師と患者さんやご家族との関係よりも、看護師と患者さんやご家族の関係が深く、「信頼関係、依存関係」が成立しているためである。
そのため、医師に比べると患者さんやご家族、ご遺体に対して「感情移入」が見られ、客観的な判断や看かたが出来ない場合もあるため、注意も必要である。
客観的な「ご遺体の看かたのポイント」が必要となる。
私がご遺体を見る場合には(司法的・医学的な見方はせずに科学的は見かたをする)、死亡前のヒストリーが乏しく、死亡診断書や死体検案書も見られない場合が殆どである。
そのために、目の前のご遺体から出来るだけの情報を引き出す必要がある。
ご遺体から得られる情報は非常に多く存在しており、測定機器を使用すると更に多くの情報がご遺体から得られる。
一方、医療現場にいる看護師は私よりも情報を多く得られる立場ではあるが、現時点ではこれらの得られた情報の分析力や対応力が乏しく、エンゼルメイクに活用されているとは言い切れない。
医療現場で得られる患者さんやご遺体の情報でもポイントは限られており、限られたポイントを把握し対応するだけでもエンゼルメイクは飛躍的に改善する。

 

 

臨床でのポイント

 

遺体管理学では「理論的なご遺体の見かたと論理的なご遺体の見かた」が必要である。
そのため、ご遺体の管理では「元疾患よりも直接死因が重要」となり、更に「死亡時の症状」が重要となる。
これらの情報は、カルテや看護記録、温度板に多くが記載されており、カンファレンスや申し送りで日常的に伝えられている情報である。
代表的な例としては、死線期に下顎呼吸が見られる患者さんでは死後の顎関節硬直が早く出現するため、死亡確認後早い時期の口腔内ケアが必要となる。
また、死線期に全身の痙攣等が見られた患者さんでは、全身の死後硬直が早く現れるため、これらのポイントも配慮する必要性がある。
血算において、HctやHbの低い患者さんでは死後の死斑形成が弱く、顔面の蒼白化は比較的穏やかである。
一方、HctやHb値の高い患者さんでは、生前と死後の変化が大きく顔面の蒼白化が顕著に現れる。
酸素投与が5?以上の患者さんでは死後の死斑が鮮紅色化するために、酸素投与のない患者さんや投与量の少ない患者さんと比較すると、顔面蒼白化が生じた後も顔のベース色が紅色化するために、酸素投与のないHctやHb値の低い患者さんの死後と比べると、ファンデーションやベースの色の選択が異なることから、血ガス値もエンゼルメイクの選択ポイントとなる。
バイタル・サインにおいてはBPやPは重要ではなく、RやKTが重要となる。
KTは感染、中枢性、外部因子があるが、特に高い場合には死後に悪影響が見られるため、KTが高い状態で死亡した患者さんに対しては、「ハイリスクご遺体」と認識する必要性がある。
ご遺体のトリアージにおいては死亡前・死亡後の高KTは重要なトリアージ・ポイントでもある。
すなわち、生前の患者さんから得られる情報を点数化することにより、死後のご遺体の変化を予測することが可能であり、トリアージと処置の選択が容易に行えるようになる。
ご遺体のトリアージは大規模災害、パンテミック、緩和ケア、在宅、救急・ICU、一般病床ではポイントが異なり、対応も異なる。
これらについては、直接講習または書籍にて指導を行う予定である。

 

 

ご遺体の特徴を理解する

 

ご遺体は生体とは全く異なる特性(特徴)を有する。
筋組織は患者さんからご遺体になることにより、弛緩⇒硬直⇒硬直緩解⇒弛緩の変化が生じる。
この現象は死後経過時間に比例して発生し、病院勤務の看護師が体験する死後の変化は、弛緩⇒硬直までが一般的である。
そのため、硬直した顎関節が緩解し弛緩する状態を目にすることはないと思うが、ご家族はこれら一連の変化を目にし、体験することとなる。
在宅の看護師ではこれら一連の変化に面するため、これらへの対応を理解し対処する必要性があるが、病院勤務の看護師ではこれらに対しての対処は必要がないものの知識として得ることが望まれる。
特に恒常性の消失したご遺体では、生体に対する常識は通用しない。
死後短時間でアシドーシスが進行し、ビリルビン等の色素の変化を亢進する。
血管内ではDIC類似現象が生じ、凝固因子の消費と凝血、止血障害が発生する。
胸腔・腹腔内では常在細菌叢は崩壊し、通性嫌気性細菌が増加し,ご遺体の腐敗が発生し、重篤な腐敗症状(現象)が進行する。
口腔内においても飲食が停止し唾液分泌やリパーゼ等の消化酵素の分泌が停止し、細菌の増加が進行する。
人体とは体内に微生物学的な農場と化学工場を備えた状態であり、生前はコントロールされた状態であったが、死後これらの機能のコントロールが制御不能となり、暴走をする場合が多い。
そのために、ご遺体の冷却等を行い、微生物の暴走や化学物質の変化や作用を抑制する必要がある。
旧来より行われてきた「ご遺体の冷却」も論理的に検討すれば日本国内においては非常に合理的な考え方である。
ご遺体を理解し、ご遺体を看ることによりご遺体に必要な処置や対処が見出すことが可能となる、
ご遺体にとって、ご家族にとって必要な処置とは「過剰でない処置」であり、エンゼルメイクにおいては、必要以上のことを行う必要性はない。
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