boxtop.gif
エンゼルケアアーカイブ
archivetopcomme.gif
放射線源を有する患者さんの死亡時の対応

 

長沙民政職業技術学院 遺体管理学教授  伊藤 茂 氏

 

放射線源と火葬

 

北米では、前立腺がんの患者さんの治療に対しては、前立腺全摘出手術とほぼ同数がヨウ素125を用いた小線源療法実施されている。
日本では「放射線取扱い」等の問題があり実施は困難であったが、2003年7月にヨウ素125密閉線源の永久留置に関する法規が整い、国内でも一定の基準を満たした施設で実施可能となった。
2007年4月30日現在では、70病院で前立腺密封小線源治療が5,700例実施されるまでになった。
実施施設の多くは大学病院や国公立の癌専門病院、公立病院であり、民間病院への普及は遅れている。
この前立腺癌治療の放射線照射器具を永久的に挿入する方法は、2003年3月13日付「医薬安第13001号 厚生労働省医薬局安全対策課長通知「診療用放射線照射器具を永久的に挿入された患者の退出について」、2004年1月30日付 医政発0130006号 厚生労働省医政局長通知「医療法施行規則の一部を改正する省令の施行について」により治療が実施されるようになった。
全国保健所長会の通知(全保第53号 2007年9月14日)では、厚労省担当部署より各施設の泌尿器科医に対して患者やその家族への指導徹底と、放射性物質に関して国民感情に配慮するよう指導があり、医薬局安全対策課長通知では、「治療後早期に患者がなくなることは稀であるが、治療後一定期間内に患者が死亡した場合、担当医と連絡を密にとり、火葬に付す前に剖検にて線源を取り出す必要があること」と記載されている。
局所的ながんの治療には、外科手術、体外からの放射線照射、組織内での放射線照射、ホルモン療法等がある。
特に早期の前立腺がんについては、ヨウ素125密封線源を体内に永久的に挿入し、組織内で放射線を照射する治療が欧米を中心に広く普及しており、米国においては、年間数万件程度実施されている。この治療法においては、患者は線源を体内に挿入したまま社会復帰することになる。
我が国においては、近年、年間14,000人以上が新たに前立腺がんと診断されており(この20年間で7倍程に増加)、この治療法の潜在的な適応患者は年間数千人に達すると考えられている。 (文部科学省科学技術・学術政策局原子力安全課2005年5月29日)

 

 

具体的な問題点

 

前立腺がん患者さんへのヨウ素125及び舌がん患者さんへの金198密封線源の永久的な挿入については、本来は文部科学省所管法令の「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」に抵触するが、本法令の適用を除外し厚生労働省所管の医療法の枠組みによる規制や基準、指導事項等を定めた。
そのために、放射線源の挿入療法に関しては文部科学省所管より厚生労働省所管となり、厚生労働省や各自治体、保健所を通じての啓発や指導が行われている。
文部科学省の放射線安全規制検討会では、患者さんからの放射線源の脱落や周囲へ与える放射線の影響、または、放射線源を挿入した患者さんが死亡し火葬を実施した時の、火葬場職員、葬儀社担当者、火葬後の遺骨からのご家族の放射線の影響等について検討をしている。
文部科学省放射線安全規制検討会の算出では、火葬による放射線からの影響(線量)は非常に微量であり、放射線防護のための特別な措置は必要ないと考えられると報告をまとめている。
火葬場から遺骨を抱えて帰宅するご家族は5.66μSv、1年間遺骨を自宅に保管したご家族の線量を58.1μSvと算出している。
ちなみに、東京?ニュー・ヨーク間を航空機で1往復すると0.2mSvであり、1年に1度の健康診断で胸部X-Pや胃透視を受けることを考えれば、問題となるべき線量ではない。
しかし、厚生労働省では前記医薬局安全対策課長通知にて、「挿入後にまもなく死亡した患者さんに対しては、剖検をもって線源を摘出すること」としている。
ご遺体からのペースメーカーの摘出は比較的簡単な手技であり、ペースメーカー摘出は「剖検扱い」にはなっていないが、前立腺への線源挿入はペースメーカーのように体表ではなく深部のため、線源摘出には「保健所の解剖許可が必要」と判断されている。
大学の病理・法医・解剖や監察医務院では事前許可があるので問題はないが、一般病院の病理以外の外科や泌尿器の医師が線源摘出を行うことは、「保健所の解剖許可が必要」と通知が出されているため、時間的問題や、許可・書類的な問題から、病理医の執刀や立会いが基本的となっている。
線源を挿入した病院以外で患者さんが死亡した場合は、線源挿入病院の医師が死亡病院へ出向くか、ご遺体を線源挿入病院へ搬送し、摘出を行うことが多い。
2007年10月1日現在対象死亡例が19件あり、そのうちの岩手県、東京都、徳島県にて線源が摘出されずにご遺体が火葬されてしまった。
この3件に関しては、火葬後に線源挿入病院が火葬に気がついた事案で、線源挿入病院以外での死亡により発生した問題である。
患者さんの家族への啓蒙活動は十分とは言えず、患者さんの死亡時に線源挿入病院への連絡がなされなかったために発生したと考えられる。
また、死亡病院でも線源に対する認識がないのか、線源を把握していなかった可能性もある。
現時点では厚生労働省、都道府県、政令指定都市、保健所からの通知と関連学会のガイドラインの周知であり、入院病院や搬送された病院がこれらを把握し履行しているかは不明である。
葬儀やご遺体の処置に関しては日本国内には一切の法令や条例は存在しないため、葬儀や葬儀領域でご遺体の処置を行うには許認可、届出、資格は必要ではない。
葬儀業界や葬儀領域でご遺体の処置を行う者で、官報や厚生労働省や文部科学省の検討会や審議会議事録、通知を目にする者はなかなか存在せず、都道府県や政令指定都市、保健所等の通知を目にする者も滅多に存在しない。
法令や条例のない葬儀領域においては「これらの履行義務を有しない」ために、線源挿入患者さんが死亡した場合は「葬儀社に引き渡される前」に摘出処置を行う必要性がある。
ご遺体からのペースメーカーの摘出は、葬儀社職員がご遺体を切開しペースメーカーを摘出(多くは有償)しているケースもあるようだが、この行為は「解剖行為」とはならないため「刑法第190条 死体損壊罪」に抵触するかどうかの問題点がある。
しかし、前述のように「線源摘出は解剖行為」であり、医師資格またはこれらと同等の学識を有すると事前に認められた者でなければ行えない。
そのために、線源摘出はペースメーカーの摘出やエンバーミングのように葬儀社内で行うことは出来ない。(医師等が行う場合は許可が出る可能性はある)
線源の摘出手技はペースメーカー摘出のように「ペースメーカー単体だけの摘出」ではなく「線源単体だけの摘出に限らない線源を挿入した前立腺や周囲組織の摘出」を行わなければならない。
線源は数多く挿入されており、対象部位の骨盤腔内組織を摘出し「厳重に管理・保管」をすることが求められている。
今後の線源挿入実施数は大きく増加すると予測されており、線源挿入後1年以内の死亡者数も増加が見込まれている。
線源挿入後1年以内の死亡事案については前述の「解剖での線源摘出」が求められるが、他院での死亡や自宅死亡では適正対応が困難となる可能性がある。
そのために、病歴・治療暦(治療内容)の把握を確実に行い、院内においても「線源挿入ご遺体対応マニュアル」の作成と履行が必要となる。
解剖室や病理医を有していない病院では、事前に対応を検討することが重要となる。(所轄保健所とも協議する)
また、他院にて線源摘出を行う場合のご遺体搬送費用や解剖費用等の金銭的な問題も発生し、これらの費用をご家族が負担するのか、死亡時の病院が負担するのか、線源挿入を実施した病院が負担するのかを明確にしなければならない。
線源挿入はご遺体の対表面から確認することは非常に困難である。
そのために、ヒストリーの乏しいご遺体や災害現場でご遺体の処置を行う我々は、到着または現場での各ご遺体に対して、放射能測定を含むガス測定やその他の測定機器を用いた測定を行った後に、ご遺体の状況を判断して処置の内容や対応を決定している。
しかし、日本国内にこれらの機器や機器を使用してご遺体を判断している「ご遺体処置施設や技術者は存在せず」、病院を死後退院したご遺体の把握は出来ないために、看護部や看護職においても「危機管理意識」をもって対応して貰いたい。
boxunder.gif
undermark.gif underdescri.gif
会社案内 プライバシーポリシー