長沙民政職業技術学院 遺体管理学教授 伊藤 茂 氏
遺体の科学
ご遺体に関しては医学が全てのベースとなるが、これら以外にも微生物学、物理学、化学等が基本となり、これら以外ではご遺体をキレイに見せるための環境創りのための色彩学、ご遺体の処置や管理のための経済学が求められる。
これらが重合して「遺体の科学」が成り立ち、実践や研究するのが「遺体管理学」となる。
これらの視点でご遺体やご遺体周囲に起きている事を見ると、非常におもしろく不思議な部分もある。
これは科学的興味や学術的興味を持つかであり、単純な疑問で終わらせるのかその原因を知りたいのかが重要である。
身の回りには深い意味を持つ何気ない話が転がっているが、それに気が付くか、興味があるか、調べる気になるか、実行する行動力があるかが重要であり、患者さんから訴えがあるから動くのか、患者さんからの訴えは無いが気が付いて対処するかが重要で、訴えの出来ないご遺体では「気が付く、予測する」が全てと言える。
ルーマニアのトランシルバニア地歩の吸血鬼ドラキュラは「にんにく」が嫌いであるが、何故と考えた事があるだろうか?
「にんにく」はアリインが酵素によりアリシンとなり特有の臭気を発する。
そのために、ドラキュラは臭いアリシン臭気が苦手との考えが主流かも知れないが、これでは単純であり科学的には面白くない。
そのために「にんにく」の成分であるアリシンに注目すると、面白い仮説が出来上がる。
アリシンは赤血球を破壊する働きがあり「溶血起因性物質」であり、「生のにんにく」を多量摂取するヒトには溶血性の貧血が見られる。
血液が大好物(主食?)のドラキュラにとっての貧血患者さんは嫌な存在であり、生にんにく⇒アイリン⇒アリシン⇒赤血球破壊(溶血)⇒貧血との科学的な関連付けが行える。
ドラキュラと会ったことが無いために真意は分からないが、ドラキュラにとっては「にんにく」は敵となる筈である。
また、自動車やオートバイの運転免許証に使用されている写真の背景は何故ブルー色なのであろうか?
これは黄色人種である日本人の肌色に関係しており、「日本人の肌色の補色が免許書写真に使用されている背景のブルー色」であるからである。
このブルー色と日本人の肌色のマッチングは非常に良く、目鼻立ちをシャープに見せてクッキリと見せる効果があり、葬儀においても男性ご遺体等であれば棺の中の顔の周囲に敷けば、ご遺体の顔が凛々しく見える効果がある。
一方、中国では公的証明書や運転免許の写真の背景色は赤色であり、同じ東洋民族である中国人の顔色には決して合致しておらず、「ボケた顔」になる傾向がある。
顔は周囲の色や衣類の色により大きく印象が変わるために、ご遺体と色との関係は非常に重要であり、貧血の強いご遺体と黄疸の強いご遺体、日焼けしたご遺体では顔のメイクだけではなく、トータル的な色彩管理が重要となる。
棺の中のご遺体や顔の周囲に入れる花の色や種類も、ご遺体の顔色や衣類の色を見てから選択するのが至適管理であり、顔色やメイクに合わない花の色や花を入れられると、台無しになる場合もありトータル管理は重要である。
パンデミックでの科学とご遺体管理
例年、この時期になるとSARSや高病原性鳥インフルエンザ等の「新型インフルエンザ」のパンデミックが話題となり、色々な情報や動きが錯綜する。
特に昨年から今年にかけては、平成19年3月26日に出された厚生労働省の新型インフルエンザ専門家会議が発表した、「埋火葬の円滑な実施に関するガイドライン」を基に、各都道府県や政令指定都市には大きな動きが見られている。
このガイドラインも原案である「資料1-4埋火葬の円滑な実施に関するガイドライン」と比較すると微妙に違った部分が出ており、どの様な経緯があったかは不明ではあるが、原案の方がより現実的であったと考えられる。
パンデミックが発生すると大多数の感染者と多数の感染死亡者が発生し、罹患したご遺体の管理や処置、搬送や火葬等が大きな問題となる。
そのために、新型インフルエンザ専門家会議においても「埋火葬の円滑な実施に関するガイドライン」、を策定して、感染者の死亡後の対応も検討し指針を示しており、各都道府県や政令指定都市でも遵守されている。
しかし、その中においても遺体管理学や他の科学的見地から見ると疑問な部分もあり、実際にパンデミックが発生すると「問題」となる部分があり、各地の行政は問題のあるままで準備や備蓄を進めている。
未曾有の事態を経験したことが無いために仕方が無い部分ではあるが、阪神淡路大震災の折りも被災地の火葬場が破損や火葬場職員が被災し、震災現場での火葬は不可能となり自衛隊のヘリコプターやトラックでの他府県へのご遺体搬送を行い火葬の実施を行った。
当時の厚生省は最悪時には川原や広場でのご遺体の「野焼き」を検討しており、今回の「埋火葬の円滑な実施に関するガイドライン」においても、野焼きに変わる対処を示唆している。
「埋火葬の円滑な実施に関するガイドライン」ではご遺体の保存、保管方法としてドライアイスと納体袋を想定しており、これら以外では民間の保冷倉庫や冷凍倉庫、冷蔵車や冷凍車の使用を示している。
加えて東京都ではパンテミック発生時には遺体安置所を設置し、ドライアイスでのご遺体の保管を想定しており、これでも不足する場合には都立公園等に穴を掘りご遺体を埋葬し、パンデミックが落ち着いた時点で掘り返して火葬をする計画である。
そのために、各自治体は昨年から今年にかけて1,000?3,000枚との多量の納体袋の備蓄を始めたが、厚生省では新型インフルエンザに用いる納体袋の基準を示しておらず自治体毎の判断に委ねているが、国内には納体袋関する基準や規格は一切無く、自治体毎に入札を行いパンデミックに備えているが、専門的に考えるとこの段階で大きな問題が発生している。
納体袋の危険性
パンデミックは国家的な非常時であり、「非常時においては法の適応を受けない」との基本から、平常時とは異なる判断や行動が認められている。