湯灌・死後メイク専門会社プリエール 部長 大垣 麻里 氏
綿花詰めはすべての御遺体に対して必要な処置ではなく、必要な場合でも一律の処置というわけにはいかないところが難しいのですが、綿花詰めで血液や体液の漏れは多少なら防ぐことができます。
それでも綿花詰めの処置は、綿の吸水量が少ないため予防処置程度だと御理解いただいた方がよろしいかと思います。（綿花を詰めれば漏液が防げるわけではありません） 綿花処置で、ある程度の効果があると思われる御遺体は以下の通りです。
①現状で血液や体液が出ている方（吐血後死亡など）
②敗血症、糖尿病、感染症等による高熱で亡くなられた方
亡くなられた時の環境温度が高い方
溺死、水死、黄疸が見受けられる方
（時間経過とともに流出することが多い ①②とも鼻と口のみ 下記の＊参照）
③習俗的に亡くなったら詰めるものだと思っておられるご家族の場合（詰めないと悪霊が入り込む、病院で詰めるのが常識だと言われる方など）
詰め方
＊鼻 綿球ではなく細長く裂いた綿花をピンセットで鼻腔内奥に送る
小鼻には詰めない（見えないところまで）
＊口 のどの奥にだけ詰めて、口腔内はお口元の印象を整える程度にする下着着用の場合は尿パット等を充てておく
＊膣 現状出血等なければ必要なし。出血のある場合は尿パット等を充てておく
血液や体液が流出している御遺体のほとんどは、きちんと綿花詰めされています。綿花を詰めたから流出しないということではなく、流出するには理由がありま す。 ②のような状態の方は多くは腐敗が早く進み、腐敗ガスの発生により腹腔内圧があがり滞留した体液が押し上げられての流出です。流出しないようにするために は、できるだけ腐敗の進行を遅らせるしかありません。すぐにできる方法としては“体温を下げる”冷却方法です。看取りの場面で、亡くなった後すぐに冷却す るのはかなりご家族にも抵抗があるかもしれませんが、最後のお別れの場面を考えますと、必要だと思います。
【ドライアイスによる冷却】
ご家族とのお別れの後に御了承いただいて、下腹部や肺の上に置いていただくのが最善かと思います。不必要に手が凍らないようにするために手をタオル等で巻いておくと冷気が直接触れなくていいと思います。
【保冷剤等による冷却】
ドライアイス冷却と比較するとかなり効果は落ちますが、しないよりかはいいと思います。保冷剤使用の際は、タオルでぐるぐると巻いてしまうと冷却効果がな くなりますので、お体の上に直接保冷剤を置き、そのうえをタオル１枚でカバーし結露により着衣が濡れるのを防ぐようにしていただけたらと思います。どうし ても多少着衣は湿ったり、濡れたりすると思います。そこが難点ですが、葬儀社さんがドライアイスによる冷却や保冷庫による冷却をされるまでの一時処置とお 考えください。
現場でご家族とともにおられる状況で、そこには感情もあり、単に対処法としての綿花詰めは難しいと思います。多くの看護師さんから、綿花詰めの必要がない と言われてもそれをやめる勇気がない、あるいは反対に綿花詰めを行うことに抵抗があるなど様々なご意見をお聞きします。それらはいずれもその後体液が漏れ 出ないという確証が得られないからだと思います。葬儀社さんと連携ができて、死亡直後から火葬まで継続的な冷却処置ができたらと思います。病棟によって無 理な点や問題等おありかと思いますので、どうぞ御意見をお寄せいただければ幸いです。（素敬さん宛にメールでお寄せ下さい）
著者プロフィール
関西外語大学スペイン語科を卒業後、大手都市銀行に入行。その後、茨木市の介護ステーションで訪問介護の職に就き、介護福祉士の資格を取得。年老いた方 が、自らが死に逝く様に不安を抱いていることを感じ、人生最期の介護サービスとも言うべき湯灌業務を専門とする有限会社ケイエスサービスに入社。湯灌業務 のほか、新人教育、人材育成等のマネジメント業務全般をこなし、組織の中核を担う。亡くなった方の声を聞きその気持ちを叶えるため、また、ご家族の気持ち に沿ったお別れを提案するため、独自のアイデアでエアブラシ等を使ったメイクや新しい技術の導入にも積極的に取り組む。理想のお別れのスタイルを確立する ため、湯灌・死後メイク専門会社プリエールの設立に加わり、現部長。関西地区の医療機関や葬儀社で、持ち前のやさしい語り口でメイクや着付けの指導にもあ たっている。
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