死亡時の体温が通常範囲であれば冷却しなくても問題はありませんが、もし重篤な肺炎や腹膜炎、胸膜炎、敗血症等で体温がかなり高い状態で亡くなられた場合は、ご家族のご了解のもと、冷却処置されたらいいと思います。ご家族の了解を得られない場合は 退院時に葬儀社さんに早急に冷却されるようお声を掛けていただければと思います。
アルコールの多量摂取、睡眠剤や抗精神薬の多量服用、覚せい剤の使用症例では、これらの作用(副作用)により「高体温が持続」します。そのために、死後も深部体温の低下が遅くなり「腐敗リスクは高まる」となります。麻酔薬による問題としては「悪性高熱症」があり、この場合も同様です。感染等による高体温以外でも「中枢性発熱」はご遺体にとっては大きな問題となります。
腐敗(死後の変化)に関しては、小児であるかどうかの関係性は薄く、大人や小児に限らず、亡くなられた時の状況(感染症の有無、環境温度、水分量、血液状態…等々)に左右されます。敗血症や糖尿病などの場合は要注意です。解剖後の場合、血液等を排出してますので、腐敗はかなり起きにくい状態のため院内でのクーリングは急がなくてよいと思います。帰宅後は葬儀社にて必ずクーリングを行います。お化粧についてはサービスの有無によりますので必ず行うとは限りません。『最後の時を迎えたとき、当院では家族の腕の中で看取っていただくよう配慮してます』 と書かれていますが、これが一番大切なことだと思います。
弊社が確認したところ、冷蔵庫で安置したことが原因で顔色が紫色に変色したとの事例は聞いたことがございません。冷蔵庫からお出しした後の問題点としては結露してしまうことぐらいではないかと思われます。
マーゲン・チューブで胃の中に冷水を入れることは、初期の腐敗防止策としては有効な処置です。最も効果が高いのは「腹腔内の冷水洗浄」ですが、こちらは簡単に行える方法ではありません。胃に冷水(5℃以下が望ましい)を注入し停滞することは、腹腔内温度を低下させます。特に胃に接する肝臓の部分、膵臓、横行結腸、十二指腸の冷却効果があり、腹部の初期冷却ではある程度の効果があります。
しかし、腹腔内でも上行・下行結腸、S状結腸、直腸、回腸、空腸の冷却効果は低いのも事実です。そのために、冷却水胃洗浄は急速に腹腔内温度を下げる方法としては有効ですが、持続効果が低いために他の冷却(冷蔵庫、氷、ドライアイス、蓄冷材等)との併用が基本となります。また、より高い効果を出すためには冷却水は500?1,000ミリリットルを2?3クール行います。1回の注入でも効果はありますが、冷却は10分程度は滞留をさせます。基本的には、2回の冷却水洗浄で上部腹腔内温度は5?10℃下がると考えられます。
冷却水の胃洗浄は初期冷却では有効な手段ですが、この目的のためにご遺体にマーゲン・チューブを入れるのには一長一短があります。私の場合は、「冷やした防腐液」を入れますので低温による冷却効果と防腐薬剤による持続的防腐効果があります。この方法であれば、1回の注入で済みます。