リンパ浮腫や火傷で見られる表皮からの漏液では、尿取りパット等を患部に巻く事も可能ですが、蛋白質系の漏液のために腐敗や悪臭の発生が生じ、漏液による衣類や寝具の汚染も現場では大きな問題となります。ラップを使用する場合は市販のラップ(サランラップやクレラップ等)を使用して下さい。材質的には火葬を考えると塩素系素材は好ましくありませんが、塩素系素材のラップの方が使いやすく、患部への密着性も優れています。材質に「PVC」と書かれている物が使いやすいと思います。患部へは2周程度をラップで巻いた後に、テープで止める( 固定 )を行います。ラップは患部への直接使用でもかまいませんが、軟膏等を塗布してから使用すると密着性が高まり効果は上がります。
腹水を完全に除去するためには50?近くのカテーテルやトロッカーを挿入し、真空ポンプを用いなければ不可能と言えます。特にダグラス窩に溜まった腹水の除去は容易ではありません。その意味でも、腹水除去は量を重視するのではなく、「ご遺体の容姿」を優先するべきと言えます。ご遺体の腹部の膨満が取り除ければ、腹水が残存していてもご家族の希望に添えた状態になると思います。
腹腔穿刺では穿刺する針の大きさも重要であり、私はPD用の太い針を使用します。これであれば、穿刺部位からのカテーテル挿入(17?19位)は可能であり、10?程度の除去も可能です。問題は穿刺部位であり、基本的には正中穿刺となります。正中穿刺であれば、穿刺孔からの漏液は起こり辛いと言えます。しかし、腋窩線穿刺では腹水残留があると漏液が見られる場合が多々あります。しかし、これも穿刺針のG数に影響され、14G程度以下であれば然程影響は無いと思われます。また、穿刺も垂直穿刺ではなく鋭角穿刺をおこなえば漏液の可能性は更に減少します。
ナートする場合も生体におこなう外科縫合では効果は低く、ご遺体専用の縫合方法があります。
ただし、前述の様に正中線穿刺をおこなう限りは、神経質になる必要はありません。正中線穿刺以外の場合は、穿刺法に注意を払えば問題は出辛いですが、皮下脂肪の少ないご遺体では漏液リスクが増えますので、ご遺体専用縫合(1針)を検討するのも選択肢に加えてみても良いかも知れません。院内でコンセンサスを取って下さい。(既に縫合を行っているので、倫理面としては問題が無いと思います)
腹水のあるご遺体は、腹水症状だけではなく多くの症状を伴っています。そのために、腹水対策処置だけではなく総合的な処置を行うのがBestです。例えば、腹水穿刺による除去も有効な方法ですが、腹水を除去しなければならない訳ではありません。ご家族が除去を希望する場合や、多量のために問題のある場合は積極的に行いますが、特に希望も無く弊害のない場合は除去しなくても構いません。
しかし、腹水貯留を認めるご遺体の多くには胸水貯留や肺水腫を併発している場合が多く、この場合は腹腔内圧・胸腔内圧上昇が見られ、経度の腐敗が生じても口や鼻からの漏液が生じます。その意味では腹水除去は効果的な方法です。ただし、全ての腹水や胸水を除去するのは困難であり、減圧や容姿目的の除去であれば穿刺部位に注意をすれば、比較的容易に行えます。腹水や胸水を除去した後に、ご遺体専用薬剤を注入すればご遺体の悪化(変化)を抑えることは可能です。
マウスcareを効果的に行いたいのであれば、「生体用の商品や薬剤」ではなく効果優先の「ご遺体用の製品や消毒薬、他の薬剤」の使用が最も効果的です。患者さんに使用する物は「安全性を重視」しており、効果は安全性ありきの物となります。しかし、ご遺体では安全性はほとんど考慮する必要性は無く、効果を優先することが一般的です。そのために、ご遺体に対してはエタノールやホルムアルデヒド、グルタールアルデヒドの使用も可能であり、これらの薬剤の効果は高いと言えます。恒常性のない状態が持続するために、効果の高い薬剤を使用しなければ自浄作用や飲水等が無いために至適状態は維持できません。剥がれかけている皮膚を剥がすのは、処置としては1選択肢に加えてもよいと思います。
出血のある場合の基本は創部の固定または乾燥です。乾燥は簡単な方法ですが、組織の収縮が大きく変形を伴います。そのために、創部および創部周囲の固定処置が基本となります。ワセリン等は乾燥防止には効果はありますが、乾燥を遅らせる上に固定効果が無いために、出血部位へのワセリン等の塗布は適していません。出血部位や創部、幹部に対しては生体用以外の物が適しています。素敬製品ではMPシリーズ(液体・ゲル)が適しています。
ご遺体にはエタノールとMPジェルを使用して口腔内ケアをしています。方法はセッシに綿花を巻きつけエタノール等をつけて口腔内、歯も含めてきれいに拭いていきます。看護師さんのお話によりますと、エンゼルケアにおける口腔ケアは患者さんに毎日される口腔ケアと同じにされているところがほとんどです。緑茶で吸引をかけながら洗浄されてオーラルバランス等の保護剤を塗布されたり、出血箇所にはオキシドールを使用されたりするそうです。大別すると緑茶派と重曹をお湯で溶かしてアロマオイルを混ぜた溶液派とがほとんどでした。